もう一度、愛してくれないか

「おまえ、昔一度だけ朝比奈のパーティで見た、田中の娘を覚えてるか?」

田中とは、名古屋支社長を兼ねた常務のことである。

「あぁ、田中くんの娘さんって……松濤の実家にある市松人形にそっくりだった女の子ね」

短大卒の紗香より、四大卒の田中の方が年齢は上だが、入社した年では同期だ。
あいつは紗香のことが好きだったに違いない。

でも、紗香はおれがかっ攫ったため、田中は紗香が教育係を務めた山村(やまむら) 敦子(あつこ)と結婚したのだが、その「あっちゃん」がなんと紗香によく似ているのだ。実の姉の清香よりも、あっちゃんの方が紗香と姉妹に見えるほどである。

「もし、うちに女の子が生まれていたら、あの子みたいな子だったと思うわ」

紗香が遠い目をして言った。あのパーティで彼女を見たときと同じ言葉だった。

田中の娘は幸いにも、表面上は父親のDNAがカケラも反映されず、ただあっちゃんのDNAだけで形成されていた。
つまり、まるで紗香の娘に見えるほど、よく似ていたのである。


「……あの子を、大地の嫁にしないか?」

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