もう一度、愛してくれないか

両親が他界しほかの兄弟も独立して離れたので、とうに実家はないが、おれの生家は祖父がかつて石川島造船所で技師をしていた関係で、東京の佃島にあった。今は石川島播磨重工の工場跡地にタワーマンションが立ち並ぶ月島の近くだ。

佃島に移る前のご先祖は江戸の昔から日本橋に住んでいて、一応、三代以上「朱引」の中の江戸府内で生まれ育ったチャキチャキの「江戸っ子」だから、おれも「滅法、気が短けぇ」はずだ。
(「両親ともに三代、朱引ん中で生まれねぇと江戸っ子たぁ言えねぇな」って言うヤツもいるが、おれから言わせりゃぁ、そんなヤツぁ「半可通」だ。)

……にもかかわらず。

どうにも目の前のダンボールが、気になって気になって、目が離せねえ。

だったら、うじうじせずに、とっととケリをつけっちまえばいい。

……なのに。

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