茜色の約束

 少しずつ気温が下がっていた。
 朝に息を吐くと、白い息となっていた。
 僕は自転車通学を一旦止め、徒歩通学となっていた。


 暗くなるのが早くなり始めたので、僕らは暗くなる前に駅を後にし、二人でゆっくりと帰路に着いた。そんな最中、隣にいた志保は呟いた。

「寒い寒いって言うなら、スカートを長くすればよいのに」

 志保は立ち止まって振り返り、ついさっき僕らの横を通り過ぎた、女子高生の群衆をまっすぐに見つめている。僕も立ち止まって「どういうこと?」と志保に言った。

「だって、おかしいと思わない?スカートがあんなに短かったら、寒いに決まっているじゃない。寒いって騒ぐぐらいなら、いっそスカートを長くするとか、そんな対策をすればいいんだわ」

 志保はふんと鼻を鳴らした。
 僕は女子高生の大きな声で交わしている会話に耳を澄ませた。すると、たしかに志保の言うとおり、「寒い」と大声で騒いでいる。

 僕は、そっと志保の足元に目線を移した。志保のスカートの長さも、女子高生のスカートの長さとそんなに差はない。

 志保は僕の視線に気付くと、僕の顔に自分の顔を近づけ、それから怒っているかのように眉をひそめた。
 顔と顔の距離が近く、僕の鼓動は高鳴った。

「言っておくけど、私は寒くないから、スカートの長さが短いままなのよ?」


 そして、志保は顔を元の位置に戻した。志保の顔に目をやると、ほんのりと志保の頬が赤い気がした。
 僕は訊ねた。

「どうして寒くないの?」

 志保は僕の顔をちらりと見て、僕と目が合うと、すぐに視線を僕から逸らした。
「どうしてかしら」
 志保は首を左に傾けた。

 その瞬間、冷たい風が僕と志保の間をすり抜けた。微かにひゅうという音がした。
 この風の音は、寒い季節にしか聞かない気がする。
 
 冬が奏でる音。

 まさしく、冬の音と呼ぶのに相応しい音なのだ。
 その音によって秋は終わり、冬がやって来たのだと確信する。

 志保の髪は後方に流れた。真剣な視線をぼくに向ける。


「実の隣は寒くないの」


 僕と志保の視線が交差した。



 カシャッ  





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