向日葵
結局行く場所もなく、フラフラと来てしまったのはクラブ。


重低音が体の芯に響き、人々がブチ上げてる様子を遠巻きに見つめながら、何でこんな場所に来てしまったんだろうと、今更ながらにそう思わされた。


熱気はむせ返りそうで、アルコールの味が苦くて仕方がない。


当然気分は下がる一方で、やっぱり帰ろうかなと、視線を出入り口へと向けた瞬間。


その瞬間、人波の中で目についた光景に、一瞬言葉を失った。



「…陽、平…?」


陽平が、女と唇を重ねていたのだ。


暗がりの照明の中だけど、あたしが見間違うはずがない。


その瞬間、唇を噛み締めてあたしは、人の波を掻き分けた。



「陽平!!」


大音量に負けじと声を荒げると、こちらを振り返った彼は、あたしの顔を見るなりあからさまに舌打ちを混じらせた。


混じらせて、そして消え入りそうなほどの小さな声で、“んだよ”と、バツが悪そうなそんな一言を吐き、視線を逸らす。


嫉妬とか、そんな気持ちではなく、何でこんな場所でこんなことをしているのかを聞きたいのに。


あたしが陽平の彼女だと思ったのか女は、こちらに一睨み向けた後、彼の腕を振り払い、フロアに消えた。



「ちょっと来てよ!」


抑えられない苛立ちの中でそう言うと、有無を言わさず陽平の腕を引っ張りあたしは、そのまま外へと向かった。


諦めたような顔の陽平は抵抗することもなくあたしに腕を引かれるだけで、やる気がなさそうに頭を掻くだけ。


本当に、悔しくなる。


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