向日葵
車を止めた智也はそこで降り、あたしもそれへと続けば、どうやらひとり暮らし用に造られたアパートのように見受けられる。


二階の一室へと入ると、広めのワンルームに、智也らしいと言った感じだろう、少しごちゃごちゃとしている印象を持った。



「寮って言ってたし、汚いの想像してたけど。」


「お前、すっげぇ失礼だし。」


ブスッとした智也は、先ほどコンビニで買ってきたコーラの一本をさっそく開け、それを流し込んだ。


絨毯へと腰を降ろしあたしも、同じようにコーラを開けて辺りを伺えば、隠すことのないエロ本に、思わず笑ってしまって。



「彼女でも作れば?」


「放っとけ。」


こんな会話を交わしているうちは、あたしはまだ大丈夫なのだろう。


指先の冷たさを、手に持つジュースの所為にして、胸が苦しいのを、コーラの炭酸の所為にして。


そうやって誤魔化し続けてるうちに、きっと和らいでいくのだと思った。



「あたし、早めに住むとこ探すから。」


「…どこに?」


「どっか、人の多くないとこ。」


「この街、出るんだ?」


その言葉にコクリと頷けば、煙草を咥えるようにして智也は、視線を落とした。


部屋には沈黙の帳が下り、時計の針だけが、規則的に午前三時に近づく時を刻んでいるだけ。


クロは今頃何をして、そして何を想っているのかなと、不意にそんなことが脳裏をかすめ、重症だなと、そう思わされてしまう始末。



「…もう、苦しいのなんて嫌だっ…」


そんな風に吐き出せば、コーラの味が嫌に喉に沁みた気がした。


また朝が来たとしても、きっとあたしは、クロのことばかり考えているのだろうから。


だからもう、この街になんて居たくない。


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