向日葵
「俺は、お前が決めたことに何も言わねぇから。」


白灰色の煙を吐き出しながら、智也はそう、あたしに視線を向けた。


背中を押してもらってるようで、少しばかり気持ちは軽くなるのだが、だけどもそれが何故なのかなと、思わず眉を寄せてしまう。



「ぶっちゃけ俺は、あの時夏希のこと助けられなかったし。
後悔してるっつーか、今お前のこと助けてんのも、結局は自己満なんだけどさ。」


「…智、也…」


力なく口元だけを緩めるようにして彼は、そう言って視線を落としてしまい、あたしはと言うと、言葉が出てこないまま。


一年半前のことを、智也もまた、彼なりの想いで引きずっていると言うことだろう。


思い返せば智也は、転校してきたあたしに一番に話し掛けてくれたし、一番最初の友達にもなってくれた。


いっぱい相談にも乗ってくれたし、助けられてばっかだったな、って。



「…あたし、アンタに何も恩返し出来てないや…」


「良いって、別に。
お前に振り回されんのは慣れてるし、そう思うんなら、少しは自分のこと大切にしろよ。」


「……ごめん…」


自分自身、一体何を優先させれば良いのかがわからなくなった。


自分を大切にするってことが、どういうことなのか。


そもそも、自分のことが一番嫌いなあたしなんかが、自分自身を大切になんて出来るのだろうか、と。



「…あたし、智也のこと好きになってれば良かった。」


「馬鹿言ってんなよ。」


本当にそう思ったのだが、彼はあたしの言葉に肩をすくめることしかせず、短くなった煙草を消した。


窓の外は幾分白み始め、夜明けの訪れを教えてくれているようで、それと同時に、昨日のことが過去になってくような気がした。



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