向日葵
刹那、ガチャリと扉が開き、意識を手繰り寄せてみれば、真っ暗闇に覆われていた色を奪うように、その場所からの明かりが広がっていく。


その様をただ虚ろな目で眺めていると、“夏希?”と、ひどく落ち着く声色は、クロのもの。



「体調不良ってやつ?」


そんな問い掛けを口にしながら、彼はベッドサイドまで足を進め、そしてそれへと腰を降ろせば、スプリングが小さく軋む。


言葉を紡ぐ力さえなくなったあたしの額に乗せられたのは、幾分冷たい手の平で、反射的に肩だけを上げた。


それがクロのものだと頭では理解しているはずなのに、意志とは別に、自分の体が強張っているのを感じてしまって。



「…大丈夫、だからっ…」


「どこが?
すっげぇ熱じゃん。」


冷静な判断をしているつもりで体を起こしてみるも、それは思うように動いてはくれず、まるで出来損ないのロボットのようで。


指の先にさえも力が入らず、僅かに震えてしまうあたしの上から、暗がりの中でもはっきりとわかるほどに悲しげな瞳が落ちる。



「怖がってるのは、俺に対して?」


「…そん、なの…」


「つか、弱ってても俺を頼ることはないんだな。」


まるで、突き放されたあの日のあたしみたいな瞳で、そう彼は自嘲気味に零した。


不意に指の先に感じた冷たさに視線を落とせば、触れ合い、そしてそれは絡まっていって。



「俺の精一杯は、お前を傷つける?」


そんなことを言わせたいんじゃないのに、何にも言葉が出てこなくて、小さく首を横に振ることしか出来なかった。


何故だか涙ばかりが溢れ、そんなあたしの手の甲に、そっと彼は唇を寄せる。


単に時間が掛かるだけなのか、それとも元々、あたし達二人では無理だったのか。


そんなことの答えを出せるほど、あたしの脳はうまく機能してはくれなかった。


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