向日葵
「俺、看病とかしてもらったことないし、こんな時どうすりゃ良いのかもわかんないんだよね。」


先ほどおでこに貼ってもらった冷えピタのおかげで、幾分落ち着きは取り戻したような気がするのだが。


風邪薬は苦いばかりで、だけどもそれを飲まされ、ベッドへと戻ることを半ば強制された後、今に至る。



「仕事は辞めさせてくれないし、夏希の顔見たくて帰ってきたら、当の本人ぶっ倒れてるし。
さすがにヘコむっつーかさぁ。」


まるで愚痴でも零しているような、そんな言葉。


クロの心の中に、今、一体どれほどの大きさで“サチさん”が存在しているのか。


だけどもそれを聞くほどの勇気は持てなくて、代わりに“ごめん”なんて陳腐な言葉を紡ぐのみ。



「何で謝るかな。
単に俺が我が儘なだけの話じゃない?」


「…でも…」


「俺は俺のしたいことしてるだけだから。」


口元だけを上げる顔を見つめながら、出会った頃より随分優しい顔をすることが多くなったなと思わされるのだが。


でもその中には、どこか悲しげな色も含まれていて、それはきっとあたしの所為なのだろうけど。


本当は、苦しめ合うことしか出来ないのならば、傷が大きくなるより先に、二人の関係を終わらせた方が良いのかもしれない。



「…じゃあ、サチさんとは会いたくないの?」


気付けばそんな言葉が口を突いていて、クロの瞳は一瞬大きく見開かれた後、伏し目がちに落としたそれのまま、首を横に振って。



「アイツには感謝してるけど、今は恋愛感情なんてないから。
もう過去に縛られんのも嫌だし、夏希とこれからのこと考えてる方が、ずっと建設的じゃない?」


“そんな答えじゃ不満足?”と彼は、瞳を投げた。


疑うことに疲れ果てただけなのか、それとも信じたいと思ったからなのか、あたしは言葉の代わりに口元だけを緩めた。


それからすぐに、先ほど風邪薬が効き始めたのか、幾分まぶたが重く感じ、抗うことなく瞳を閉じれば、“おやすみ”と言った彼によって軽く唇が触れた。


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