向日葵
「ほら、俺ってダメ男じゃん?
昔から女殴ってばっかでさ、おまけにタマ喰ってて、そりゃ嫌われるのも当然なんだけど。」


「…陽、平…?」


「それでも一応、好きだった女にはその後幸せになって欲しいとか、密かに願っちゃってるわけなんだけど。」


ヘラヘラと笑ってて、でも、どこか本音を語ってるような言葉尻。


何を考えてるのかわからないのは相変わらずなのだけれど、それでもこうやってちゃんと話をしたのなんて、もしかしたら初めてなのかもしれなくて。



「…もしかして、あたしのために…」


「やめようぜ、今更そんな話。」


もしかしてあたしのために、わざとあんなことをして離れたのかな、と。


だけどもそれを言葉にするより先に、陽平の言葉によって遮られてしまう始末。



「別に、お前が俺のことホントは好きじゃないのとか、普通にわかってたっつーか。
同情とか馴れ合いで一緒に居ただけなのもわかってたし。」


「…ごめん…」


「いやいや、嘘でも否定しとけよ、その辺は。」


小さくなってしまったあたしに、彼はそうやって笑うばかりで。


もっとこうやって、ちゃんと色んなことを話しておけば良かったのかな、なんてことを、今更になって後悔してしまう。



「まぁ、そんな感じの俺だけど、何気に大人の階段登ってるんだわ。」


「…何言ってんの?」


「だからさぁ、弱ってるお前に手を差し伸べるのを我慢出来るまでに成長した、ってことじゃね?」


何だか言ってることはさっぱりだけど、それでも思わず諦めたように笑ってしまう。


そんなあたしに“笑うな、ボケ”と、彼はそう言いながら肘で小突いてきて。



「お前の荷物全部処分したら、部屋が広くて寂しくなったっつーかさぁ。
まぁ、俺が言える台詞でもねぇけど。」


少し視線を落とし、だけどもすぐに立ち上がった彼は、あたしへと視線を落とした。


落として、そして手に持っていたビニール傘を差し出して。



「あの日の傘、お前にやるわ。」


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