向日葵
その言葉の意味を理解出来るほど、あたしの脳はちゃんとは機能してくれなくて。


何故サチさんがあたしに会いたがっているのか、しかも、もうクロとは何の関係もなくなったのに。



『戸惑ってるのは俺も一緒なんだけどね。
けど、キミが来てくれないと、俺が妹に怒られちゃうんだよ。』


『…そん、なの…』


『突然変なこと言うのはサチの悪い癖かな。
それでも言うこと聞いちゃう俺は、妹に甘いとか言われてるけど。』


相葉サンがサチさんの話をする時の顔は、どこか憂いを帯びているようにも見受けられて。


突然変なことを言うのがサチさんの悪い癖なのだとしたら、人を振り回す癖のある兄妹だなと思わされる。



『アンタら兄妹の事情なんて、あたしには関係ないと思うけど?』


『じゃあ、金払えば来てくれる?』


『―――ッ!』


瞬間、あたしは唇を噛み締めた。


噛み締めて、そしてきつく睨み上げれば、彼はまるで意図していた通りだと言わんばかりに口角を上げて。



『何だ、キミにもプライドはあったのか。』


『言っとくけど、アンタのためじゃないから。』


『良いよ、理由なんて何でも。』


そんな風にして鼻で笑う様から顔を逸らせば、“着いて来てよ”の言葉と共に、相葉サンはきびすを返した。


ひとつため息を吐き出し、その後ろを続けば、湿度を含んだ地下街の匂いが嫌に鼻につき、足を進めるにつれ、下手くそな兄ちゃんの歌声が次第に遠のいていく。


それから相葉サンの車に乗り込み、今に至るのだけれど。


それにしても居心地が悪く、苛立ちを押さえるように煙草ばかりを吸ってしまう。


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