向日葵
「着いたよ。」


弾かれたように顔を向けてみれば、明らかに人気のない夜の公園。


生唾を飲み込み、無意識のうちに体を強張らせると、そんなあたしにお構いなしと言った感じの相葉サンは、一足先に車から降りた。


小さく吐き出した吐息は僅かに震えるものの、今更逃げることなんて出来なくてあたしも、同じように車から降りた。


先ほど降っていた雨の所為なのだろう、地面は幾分濡れていて、二人分の足音はぬかるみを避けるように不規則に響いて消えた。



「サチ!」


そう、相葉サンが声を上げた方に顔を向けると、目を凝らすまでもなく、電柱の下には女性と子供。


親子が作りものの明かりに照らされて立つ姿に、思わず唇を噛み締めた。



「アナタが夏希チャン?」


首を傾けて聞いて来るこの人が、“サチさん”だろう。


幾分童顔で、年齢はよくわからないけど、でも、クロより少し上なのだろか。



「ごめんなさいね、突然。
でも、どうしてもアナタと話がしてみたくて。」


「随分勝手なことを言うんですね。」


「そうね、否定はしないわ。」


彼女の右手は、4歳くらいだろう男の子の手を握り締めていて、そちらへと視線を移せば、クロと血の繋がった子供に対し、理由もわからないような苛立ちが増した。


けれどもそんな自分がひどく醜く感じ、最終的にあたしは、視線を落とすことしか出来なくなったわけだけど。


だってここに居る唯一の他人は、あたしだけなのだから。



「アナタにも、もちろんお兄ちゃんにも、ちゃんと話さなければならないと思ったから。」


その言葉に眉を寄せたのは、意外にも相葉サンだった。


まさか自分まで、と言った表情を浮かべながら、“俺?”と、そうサチさんに問い掛ける。



「それと、龍司も。」


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