向日葵

弱い同士

お互いの傷は完全に塞がってはいないけど、それでも二人、このまま時を紡いでいれば、きっと大丈夫なんだと思っていた。


クロが居て、あたしが居て。


それだけで良いと思っていたし、別に何も望んでなんてなかったんだ。








アイスティーをグラス半分ほど飲み終えた時、申し訳なさそうな色を浮かべた見慣れた顔が、あたしの向かいへと腰を降ろした。


昼下がりの喫茶店は静かな時が流れ、カランと小さくそれの氷が溶けてみれば、“悪ぃな”と彼は、そんな台詞。



「5分の遅刻だよ、智也。」


「だから謝ってんじゃん。
俺だって、龍司さん抜けて忙しい仕事の合間を縫ってんだっつの。」


そう、ため息混じりに煙草を咥えた彼は、“それで?”と、あたしへと視線を投げた。



「いや、お父さんに会ったの、一応報告しとこうかと思って。」


「うん、かーちゃんからも電話掛かってきたし。
まぁ、夏希にしては頑張った方なんじゃねぇの?」


白灰色を漂わせながら、智也はそんな風にして口元だけを上げるのだが。


頬杖を付いた状態のあたしは、窓の外へと視線を投げた。



「アンタ、あたしのこと好きだったの?」


「…それは、俺にどんな答えを求めてんの?」


多分、智也にとっては唐突な質問だったのだろう、一瞬驚いたような表情を浮かべた彼は、だけどもすぐにそうやってため息を混じらせて。


小さな沈黙の中、あたし達が視線を合わせることはないまま。



「ずっと好きだった、とか言えば満足すんの?」


口の端から長く煙を吐き出しながら、智也はそう、眉を寄せた。


いつもの彼ならば、こんな話は笑って流すはずなのにと、そんなことさえ思ってしまう。



「俺は、夏希と親友で居る方が居心地が良いし。」


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