向日葵
「…どういう意味?」


「深く追求しないのがお互いのため、ってことじゃね?」


それは、智也の本心を聞けば、あたし達の関係が壊れてしまうということだろう。


それでもあたしの恋路を応援してくれる彼は、やっぱり最高にお人好しだ。



「あたしへの未練なんか、早く捨てなよね。」


「うわっ。
コクってもないのに振っちゃうとか、残酷なヤツだよ、お前は。」


口元だけを緩めたあたしに智也は、そうため息を混じらせるばかりで。


重たかった雲の隙間から太陽の光が筋となって射し始め、窓際のこの席にも注がれる。



「俺、別にお前を支えるような器でもないし。
いつか別れちゃうんなら、ずっと友達のままで良いしさ。」


「へぇ、初めて聞いた。」


「夏希と今更どうこうなりたいとかも思えないし、まぁ、未練とか言われりゃそうなのかもな。」


肩をすくめたような顔に光が射し、智也は諦め半分でそう言って煙草を消した。


きっと、近くに居過ぎて、そして彼の優しさに慣れ過ぎて、あたしは何にも気付けなかったのだろう。



「あたし、復讐とかそんなの、もう止めたから。」


「そりゃ良いことだな。」


「ありがとね。
アンタにも、ちゃんとお礼言っとこうと思って。」


珍しく素直に言ったあたしに驚いたのか、“明日は台風が来るな”と智也は、そんな台詞で口元を緩めた。



「龍司さんのこと、大事にしてやれよ。」


腕時計で時間を確認した彼は、そんな言葉をあたしに残し、そして席を立った。


その後ろ姿を見送り、アイスティーを口に含んでみれば、すっかり氷が溶けて薄まったそれの味に、思わず苦笑いを浮かべてしまうのだけれど。


ろくでもなかった人生を振り返ってみれば、悪いことばかりではなかったのかもなと、そんなことを思った。


< 210 / 259 >

この作品をシェア

pagetop