向日葵
「あれから、もう2ヶ月になるんだね。」


そう呟いて煙草を咥えてみれば、智也は何も言わないまま、ビールに唇を濡らした。


あたしがクロのことを聞かないから、だから智也も何も言わない。


そんな感じで過ごしているけど、コイツの顔を見るといつも、あの人のことを思い出すのも正直なところ。



「生活、落ち着いた?」


「微妙だけど。
でも、前よりは何となくこなせるようになってきたよ。」


「そっか、良かったな。」


本当に、当たり障りのない会話が繰り返されていく。


ビールなんて苦いばかりで本当はちょっと苦手で、喉が焼けるようなこの感じは、いつまで経っても慣れないまま。


それどころか今日は、いつもより余計にそれを感じてしまうんだ。


折角智也が、あたしの誕生日を祝ってくれているというのに。



「俺、時々わかんなくなってくるんだ。
お前のこと突き放してんのか、甘やかしてんのか。
それが良いことなのか悪いことなのかも、何かわかんなくなってさ。」


「そんなの、あたしだってそうだよ。
結局ひとりでなんて生きていけないってわかってるから。
色んなものに対する距離の取り方って難しいな、って。」


生きることが簡単じゃないことくらい、わかってるつもりだったけど、それでも全部捨てた今は、イチから生き方を模索してる。


生きる意味を探して、ついでに夢なんかも見つけられたら最高だな、って。



「止めようぜ、こんな話。
折角の酒がマズくなるしさ。」


「だね。」


こんな時だからか、やっぱりテレビくらい買っておくべきだったのだろうなと、今更頭の片隅でそんなことを思った。


あれから増えたのなんて調味料くらいだし、少しばかり色褪せた壁が部屋の照明に照らされて、余計にビールの味が喉に沁みた気がした。



「あたしやっぱ、この街に居ない方が良いのかな。」


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