向日葵
「ヨシくんさ、言ってたんだ。
アイツと一緒にこんな小さな店するのが夢だったんだ、って。」


「―――ッ!」


「けど、もう無理だから。
だからそれは、お前ら二人に託すよ、ってさ。」


視線だけを動かして見渡せば、元々は倉庫だったのだろう場所を買い取って改造したような、どこか古びた店内だった。


でも、ここには色んな人の想いや夢が詰まっていて、そしてクロは、それを背負うことを決めたのだと言う。



「ずっと言われててさ、すっげぇ迷ってて。
けど、やっぱ俺は、お前と居たいと思ったし。」


“どう、一緒に”と、そんな風にして投げられた瞳は、ひどく優しいものだった。


もしかしたら、クロと何かをイチから始め直すのも悪くないのかな、なんて、そんなことを思いながらコクリとだけ頷けば、彼は伏し目がちにまた、口元を緩めた。



「これからは、楽しいことばっかして過ごそうぜ。
酒飲んで酔っ払って、そんでビリヤードの大会してみんなで騒ぐの。
お前はそんな俺に呆れて、たまに怒ったりしてさ。
そういうの、きっと楽しいと思わねぇ?」


そんな風に夢を馳せるクロの顔はどこか子供のようで、聞いてるこっちが思わず笑ってしまうようなものだった。


それでもそんな未来にちゃんとあたしも居て、そんなのが少しだけ嬉しかったりもしたんだ。


相葉サンがどうとか、“由美姉”って人がどうとかなんて、あたしにとってはあまり重要なことではなかった。


ただ、嬉しそうな顔してるクロを見てると、何だか心の真ん中があたたかくなるのを感じたから。


もう、後ろばかり振り返るのはやめて、前だけ向いて生きようと、そう思えたから。



「楽しみだね、それ。」


そんな風に言ったあたしに彼は、“だろ?”と言って口角を上げた。


他愛もないだけのことが愛しくて、思わずあたしも同じ夢を追って居たくなったんだ。


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