向日葵
「あー!
あたし今日、病院だったんじゃん!」


メールの着信音が響いて携帯を持ち上げてみれば、そこに記されていた時間はもう、とてもじゃないけど予約時間には間に合わず、思わず焦ってしまうのだけれど。


そんなあたしをどこか他人事のように見つめながら彼は、“行っちゃうの?”と、そう首を傾ける。


ため息をひとつ落としてみれば、今日くらいはクロとゆっくりしようかな、なんて思えてくるのだから、嫌になる。


結局病院と香世ちゃんに断りを入れ、古びたソファーの上でクロと、色んな事を話した。


彼はあたしと離れた後、あの部屋を引き払い、相葉サンの家に住んでいたのだと言う。


お酒ばっかり飲んで、色んな事考えて、そしてお父さんにも会いに行ったのだ、と。


その辺の詳しい話はまだあまりしたくないのだと言って、上手くはぐらかされてしまったけど。


たくさんお互いのことを話し、そして気付けば笑っていた。


それは、抱き合うことなんかよりもずっと意味があることのように感じて、少しばかり照れ臭かったんだけど。


昔のことも、少しだけ話したね。


でも、別に泣いたりなんてしなかったし、もうそこまで辛い出来事なんかではなくなっていたのだろう。


同じ痛みを抱え、それでも周りの人たちに支えられながらあたし達は、何とか生きて来れたから。


だから、ちゃんと感謝していこうねって、そんな風にクロと約束した。



「そんじゃ、誕生日ってことだし、どっか行こうぜ。」


「…良いのに、別に。」


“服着ろよ”なんて促す彼に、あたしは照れ隠しのように少しばかり口をすぼめた。



「馬鹿、お前の人生の記念日だ。
俺が祝いたいっつってんだから、黙って祝わせろよ。」


時々強引で、でも本当は臆病なところもあって。


そんなの全部が何だか愛しくて、思わず口元を緩めてしまったあたしに彼は、“笑うところ?”と、そんな台詞。



「どうせなら、あたし達の再出発でも祝おうよ。」


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