向日葵

選んだ道

一緒にピザを食べて、クロのシャツに包りながら、そのぬくもりの中で再び眠って。


そんなことをしているうちにまた夜が明け、新しい一日が始まった。


あれから丸一日が過ぎたのだが、陽平からの連絡はないまま。


アイツのことだから、逃げ出したペットを探す気はきっとないのだろう。


幸いあたしのバッグの中には、仕事で何があっても良いようにと、着替えと予備の下着は入れてあったので、服は何とか事足りた。







「じゃあ俺、仕事行ってくるけど。
何かあったら、すぐ携帯鳴らせよ?」


「…うん。」


相変わらず金融屋とはとても思えない小洒落た格好で、そう彼は家を出ていった。


その後ろ姿を見送ると、パタンと扉が閉められ、途端に広い部屋に静寂の帳が下りる。


陽平のことも、これからのことも、もちろんクロのことも。


色々なことが頭の中をグルグルと巡り、まるで考えがまとまることはなく、無意識のうちに煙草を咥えれば、口の中には苦味が広がった。


もう、体を売ることなんてしたくないけど、でも、それしか知らないあたしに、今更一体何が出来ると言うのだろう。


きっとクロのことだから、この場所にずっと居ることを良しとしてくれるのだろうけど、それじゃ地元から逃げてきたあの頃と、何も変わりはしない。


結局あたしは誰かの助けなしじゃ生きていけなくて、ひとりじゃ立っていることも出来ない、弱いだけの人間でしかないのだ。


そう思うと自嘲気味に笑ってしまい、吐き出した煙は漂うようにして静寂に溶けた。



『この女は、俺が拾ったんだ。
だから、何しようと俺の勝手じゃね?』


『誰のおかげで今があんのか考えてみろよ。』


『お前は俺の道具なんだから、俺とだけヤってりゃ良いんだよ!』


忘れようとすればするほど、陽平の言葉がこびり付いたように頭から離れることはなく、指の先から体温が失われていく。


膝を抱えるようにして小さくなると、まるで幼い頃に戻ったようにも感じてしまうのだから。


まるで、あの頃の延長線上を生きているみたい。


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