向日葵
♪~♪~♪

音のない世界に響き渡ったのはあたしの携帯の着信音で、その瞬間に体が強張った。


が、恐る恐るそれを持ち上げ、ディスプレイを確認すると、“智也”と表示された名前に、無意識のうちに安堵のため息を吐き出してしまう。



―ピッ

『うっす、夏希。』


「……うん…」


言われるであろう言葉を想定すると、素っ気ない返事を返すことしか出来ず、そのまま電話口からは沈黙が流れてしまう始末。


だけども少しの後、先に口を開いたのは智也の方で、“聞いたんだけど”と、そう小さく言葉が紡がれた。



『生きてて何より、っつーか。』


言葉が見つからないのだろう智也は、そうもごもごと言うだけで、芯の部分には触れようとはしない。


やっぱりあたしは“うん”としか言えなくて、小さく吐き出したため息が消えた。



『俺、とりあえずこれからそっち行くわ。
差し入れしてやるよ。』


「え?」


『つか、龍司さんに頼まれたんだよね。』


諦めたようにポツリとそう言う智也に、思わずあたしは肩をすくめてしまう。


クロは、嫌になるくらいに優しくて、どうしてあたしなんかのためにここまでしてくれるのだろうかと、そんなことを思ってしまう。


結局ほとんど何も喋らないままに電話を切ってしまい、それを放り投げると、ソファーに身を沈ませた。







『…何、その格好…』


梶原にヤられ、荷物を持って家を出た直後、気付けばあたしは智也の家の前に立っていた。


そして、そんなあたしを見た智也の第一声はこれで、驚いたように目を丸くした顔は、未だに記憶の中にある。


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