向日葵
『夏希が出ていってから、お前の大切さが身に沁みた。
謝って許してもらおうとか思ってねぇけど、それでも会って話がしたい。』


「…そん、なの…」


『一年半、何だかんだで俺らは上手くやれたし、楽しかったろ?
俺は、ずっと夏希のことだけ見てきたし、お前のこと一番わかってんのも、俺だと思ってる。』


“だから、帰って来てくれ”と、彼はそう付け加えた。


確かに陽平との暮らしは楽だったし、これと言った喧嘩もしたことはなく、一緒に遠出したりすることもあった。


陽平からされたことは消えないけど、でも、楽しかったことも消えることはなくて。



『好きなんだ、夏希。』


その瞬間に涙が溢れ、気付くとあたしは、通話を終了させていた。


クロが好きで、でもきっと、あたしに似合ってるのは陽平で。



『ずっと雨宿りしてんの?』


『俺んち、住んでも良いけど?』


あの日、あの時、居場所がなくて小さくなっていたあたしを拾ってくれたのは、間違いなく陽平だった。


あたしにとっては救いの神で、ずっとあのまま一緒に暮らしていくんだと思ってたんだ。


そんな記憶ばかりが脳裏をかすめ、どうしたら良いのかもわからなくなり、膝を抱えるようにして、それへと顔をうずめた。


陽平の家を出て、一週間。


クロと過ごしたこの一週間と、陽平と暮らした一年半とを量りに掛けることは出来なくて、ただ、涙ばかりが流れ出る。


刹那、ガチャッと響いたのは背中からで、弾かれたように顔を向けると、お風呂上りのクロの姿。



「…夏希?」


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