騎士団長のお気に召すまま
「はあ、嫌だなあ…」

「なにが嫌ですか」


アメリアが溜息を吐き出した次の瞬間、身の毛がよだつそんな声が聞こえてきた。

ギギギ…と音がしそうなほどゆっくり顔を向けると、そこには眉間に皺を寄せて怖い顔をしたシアンが立っていた。


「だ、団長…」

「まったく、貴女は!」


シアンは溜息を吐いて近づいてきた。

アメリアは逃げられるわけもなく、来る恐怖に覚悟を決める。

そんな二人を愛しく見守っていた医者はそっと医務室を後にした。


「…怪我の具合はどうです?」

「え、ああ、なんてことないです。ただ疲れてしまったのと緊張していたのとで随分と寝こけていたようです」

「そうですね、3日も」

「あははは…」


もう笑うしかなかった。

けれどシアンは笑わなかった。ただ溜息を吐いて、アメリアを抱きしめた。


「え?!」


驚くアメリアをよそに、「良かった」と掠れた小さな声で呟く。


「え、団長?」


驚きと戸惑いで声をかけると、シアンはアメリアを少し話して、まだ怪我の残るガーゼに視線を落とした。


「痕になりますかね」

「ああ…そうなるかもしれないですね」

「本当に何やっているんですか。自覚はあるんですか?」


はあ、とシアンは何度目かの溜息を吐き出した。


「傷になるようでしたら、責任はとりますよ」

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