騎士団長のお気に召すまま
シアンは眉間に皺を寄せたままだ。挨拶に返事をすることもない。そんなシアンに構わず、ミアは話を続けた。


「こんなところで何をなさっているのですか? それもそんな庶民のような粗末な服装で」


憐れむようなその言葉には嫌味は含まれていない。心からそう思っているのだ。

くりりと大きな瞳に、赤茶色の巻髪。それから美しい白藍色のドレス。

これは上流社会で育った人物、つまりは貴族の娘だろうとアメリアは確信していた。


「今、大事な任務の途中なのです。あなたに話しかけられると目立つので、非常に困るのですが」


ミアは「も、申し訳ありません」と謝ったが、すぐにアメリアの存在に気付いて鋭く睨みつけた。


「シアン様、彼女は?」

「彼女は先日入団したばかりの団員です。仕事の一環で共にマリル港へ訪れたのです」

「ふうん、そうでしたの」


しかしその瞳は鋭くアメリアを睨みつけたままで敵意むき出しだった。

身構えるアメリアに、ミアは美しくその白藍色のスカートを掴んでお辞儀をする。


「ご挨拶がまだでしたわね。私、ミア・キャンベルと申します。シアン様とは婚約のお話があり、幼い頃より何度もお会いしていますわ」


アメリアは目を見開いた。

シアンがミルフォード邸に訪れ、婚約破棄を言い渡したときの言葉を思い出す。


『我が兄、アクレイド伯爵からは別の令嬢との婚約を勧められています』


その令嬢が、このミア・キャンベル。

アクレイド伯爵も認めた相手。


「とても美しい方ですのね。ぜひまたお会いしましょうね」


アメリアに発言の機会を与えることなく、ミアはそう言い残して踵を返した。

アメリアは呆然と立ち尽くした。


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