臆病でごめんね
例の二人はちょうど箱に乗り込む所で、目障りな人物がいなくなったことにホッとしながらさっそく作業を開始した。

その十数分後、エレベーターが到着した音の後、バタバタとした足音が響いて来たので条件反射的にそちらに目を向けた。

その瞬間どきりとする。

廊下の奥へと駆けていくその人物は副社長だったからだ。

後ろ姿でも、私にはちゃんと分かる。

だけど、何をあんなに慌てているのだろうか?

大いに気になった私は、ついフラフラとその場を離れ、突き当たりの角を右に曲がっていく彼の後を小走りに追ってしまった。


「本丸さん!」


しかし彼はさほど距離を行かずに立ち止まったようだ。

曲がり角の直前まで来ていた私の耳に、明瞭に声が届いた。


「副社長」


壁からそっと目だけ覗かせると、あちら側から歩いて来ていたらしい本丸さんと対峙している。


「どうかなさったのですか?」

「君が、ケガをしたって聞いたから…」


乱れた息を整えつつ副社長は返答した。


「いえ。ケガというほどのものではありません」

「でも、ワゴンに激突されたんだろ?」

「角の部分が足首の辺りをかすっただけです」

「正面から当たるよりむしろ危ないじゃないか…」
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