臆病でごめんね
やはり皆、始業前に済ませておこうと考えるらしく、次から次へと入室して来てなおかつおしゃべりなんか始めちゃう人もいたりして、なかなか私が入り込む余地がないんだもの。

だけどそんな言い訳をしたら更に怒りを買うだけなので、私はひたすら黙って先輩の言葉を受け止めた。


「…もう良いわ。仕事に戻って」

案の定先輩はため息混じりにそう言って早々と私を解放してくれる。
ホッと息をつきつつ、そそくさとその場を離れた。


「お疲れ様です」

午前の業務を終え、昼休みに突入し、一階の売店でお弁当を仕入れて自分の部署の控え室に戻るべく廊下を進んでいると、エレベーターホール前で外出先から帰ってきたらしい男性社員に声をかけられた。

「あ、お、お疲れ様です」

私は大いにあわてふためきながら返答する。


何故ならその方は32才にしてこの会社、若宮商事の副社長を務めている若宮公貴さんだったから。

現社長の息子さんで、難関国立大を首席で卒業し、入社して来たらしい。

いわゆる「御曹司」というやつだ。

通常の社員とは異なる研修体制で約10年かけて副社長の地位にまで登り詰めたらしい。

その年齢でその役職なんて、本来ならあり得ない昇進スピードだものね。

そしてそう遠くない未来に社長に就任するのは既に決定事項であった。

同族経営には賛否両論あるようだけれど、若宮商事に限って言えば、初代社長から現在に至るまで滞りなく経営が持続しており、不平不満を漏らしたり異議を唱える社員はいない。
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