伯爵令妹の恋は憂鬱
「じゃあ、トマスはマルティナのことが好きってことでいいのよね?」
いろいろな葛藤や心情をエミーリアはあっさり一言にまとめてしまう。
「まあそうだな。……おい、エミーリアどこに行く」
「マルティナのところよ。本当のことを教えに行くの」
「待てよ。それじゃあトマスの意志を無視することになる」
「それは男の人の意見でしょ。感情って生ものなのよ。マルティナをこのままにして置いたら死んじゃうわ」
「おい、エミーリア」
慌てて追いかけてきたフリードの眼前で執務室の扉を閉める。彼がぶつかった音を確認してから少しばかり開けてエミーリアはいたずらに微笑んだ。
「私があの子の立場で、トマスがあなただったとしたら、何としてでもあなたの居場所を突き詰めて、殴りに行くわ。私の気持ちを無視して、格好つけないでってね」
「全く……」
勝気な瞳を向けるエミーリアの腕を引き寄せ、目元にキスをする。
「君にはかなわないな」
「もうっ、離して! 私はマルティナのところに行くんだから」
「待て待て。肝心のトマスの居場所を教えていないぞ」
「あ、……本当だわ」
途端にトーンダウンして顔を赤らめるエミーリアが可愛すぎて、フリードはこのまま部屋に閉じ込めたい衝動と戦いつつ、彼女に耳打ちした。