伯爵令妹の恋は憂鬱

「じゃあ、トマスはマルティナのことが好きってことでいいのよね?」

いろいろな葛藤や心情をエミーリアはあっさり一言にまとめてしまう。

「まあそうだな。……おい、エミーリアどこに行く」

「マルティナのところよ。本当のことを教えに行くの」

「待てよ。それじゃあトマスの意志を無視することになる」

「それは男の人の意見でしょ。感情って生ものなのよ。マルティナをこのままにして置いたら死んじゃうわ」

「おい、エミーリア」


慌てて追いかけてきたフリードの眼前で執務室の扉を閉める。彼がぶつかった音を確認してから少しばかり開けてエミーリアはいたずらに微笑んだ。


「私があの子の立場で、トマスがあなただったとしたら、何としてでもあなたの居場所を突き詰めて、殴りに行くわ。私の気持ちを無視して、格好つけないでってね」

「全く……」


勝気な瞳を向けるエミーリアの腕を引き寄せ、目元にキスをする。


「君にはかなわないな」

「もうっ、離して! 私はマルティナのところに行くんだから」

「待て待て。肝心のトマスの居場所を教えていないぞ」

「あ、……本当だわ」


途端にトーンダウンして顔を赤らめるエミーリアが可愛すぎて、フリードはこのまま部屋に閉じ込めたい衝動と戦いつつ、彼女に耳打ちした。
< 127 / 184 >

この作品をシェア

pagetop