伯爵令妹の恋は憂鬱


「それにしても、カッコつけていた割に、案外すぐ結婚って話になったんですね」

「ああ。……まあ、そうですね」


トマスは当初、マルティナとの結婚は二年後にすると宣言していた。
マルティナの年齢的にも、焦る必要はないと思っていたからだ。

だが、トマスの周りが放っておかなかった。
朗らかで話しやすいトマスに、社員も取引相手もあまり遠慮がない。

トマスの年齢で独身なことを揶揄し、相手をあっせんしようとする者も数多くいた。
やがて彼に、歳の離れた婚約者がいることを知ると、「早く結婚すればいいんだ」「式なんて、みんなで協力すればすぐにできる」と周りが先に盛り上がり、協力を申し出てくれた。

人の好意はある種の“力”だ。そしてそれに対しては、遠慮よりも感謝を形にすることのほうがいい作用を及ぼすことを、トマスは肌で知っている。

トマスは意地を捨て、みんなの好意を受け入れることにした。

だから花嫁のドレスも新郎の礼服は、古着をアレンジしたものだし、髪飾りもメラニーがつくってくれたものだ。
会場を飾る花は、領内に多くいる花農家が祝いにと用意してくれたものだし、飾りつけも有志が行ってくれたもの。聖歌隊も、マルティナのためにと無償で協力を申し出てくれ、料理の材料も、皆が持ち寄ってくれた。


「会社の方々が色々持ってこられたので、なかなか豪華な会場になりましたよ。お手製感は否めませんが」

「はは。ありがとうございます」


ミフェルは不満そうな顔のまま、トマスとマルティナを会場へ連れていく。
先に移動していた参列者や、近隣から駆けつけてきた人たちが笑顔で迎えてくれた。
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