伯爵令妹の恋は憂鬱


「トマス?」

「怖がらせないようにと、ずっと思っていたけど」


顎を持ち上げられ、唇を重ねられる。それはいつもの優しいものではなかった。
唇を舌がなぞったかと思うと、次の瞬間には唇を割って入り込んできて、マルティナのそれを絡めとる。


「……んっ、あ」


みだらな声が出て、マルティナは恥ずかしくなってきたが、トマスは離してくれない。


「そろそろ限界」


昨日のお酒が残っているんじゃないかと思うほど、トマスは我を忘れたように彼女を抱きしめる。

やがて、ほんの少し体を離した彼は、マルティナをじっと見つめた。
いつもきれいに隠している男の欲が浮かんで見える。

マルティナの心臓は激しく鳴り、のどが詰まったような感覚に陥る。
彼のまなざしにさらされているだけで、服を脱がされているような気分になった。

(やだやだ、なんでこんな気分になるの。私、はしたないのかな)

真っ赤になった自分の頬を押さえると、トマスがポソリとつぶやく。


「別荘に戻らない?」

「え?」


彼はマルティナの手を取ると、腰をかがめ、ゆっくり指の付け根にキスを落とした。そして上目遣いで見つめ、熱い吐息を一つ落とす。


「……ごめん。余裕なくて」


自分と同じようなことを考えているのだと気づいて、マルティナの頭は一気に沸騰する。


「ごめん、まだ明るいのに、……いやだよな」


自重するように笑った彼の顔を見て、マルティナは思わず大きく首を横に振った。
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