伯爵令妹の恋は憂鬱

「嫌じゃないです。私、待ってた……」


そこまで言って我に返り、真っ赤になった顔を両手で押える。
ふ、と頭の上で彼が笑った気配がしたかと思うと、膝の裏に腕を差し込まれ、持ち上げられた。


「きゃあ」

「つかまってて」


もともとトマスは力持ちだ。マルティナを抱え上げることなど、造作もない。
抱き上げたまま別荘に戻り、呆気にとられる使用人たちに、「少し部屋で休みます」と言いおいて鍵をかけた。

部屋は新婚夫婦ということを意識してか、いたるところに花が飾られていた。清潔なシーツの上に落とされ、マルティナは彼を見上げる。


(あ、あの目……)


どこか欲をたたえたトマスの瞳。上から押さえられた手のひらから、重ね合わせた唇からその欲がうつっていくような気がして喉が鳴る。


「マルティナ」

「あ、えっと」


日差しの強さを遮るためか、部屋にはレースのカーテンがかけられている。
もうじき夕暮れという時間ではあるが、まだ明かりをつけなくても隅々が見える程度の明度に、さすがにマルティナも一瞬たじろいだ。
けれど、トマスの視線はもうマルティナにしか向いていない。明るさなど気にもならないように、何度もキスを落としては、身をよじる彼女を愛おしそうに見つめる。


「好きだよ。……大好きだ」


腰のラインや鎖骨を撫でられる。このあたりまでなら、これまでもあったスキンシップだ。
だけど、キスをされながらでは全然感覚が違う。酸欠になりそうなほど、繰り返されるキスは、マルティナの正常な感覚を狂わせていく。服の上から胸を撫でられると、腰のあたりがうずくような感覚が襲ってくる。
今まで、じわりじわりと慣らされていたと思ったがとんでもない。マルティナはずっと手加減され続けていたのだ。
手加減なしのトマスの愛情表現は、マルティナから明るさなど気にする余裕を奪っていった。
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