伯爵令妹の恋は憂鬱

「かわいい、マルティナ」


やがて纏うものすべてを取り払われた素肌に、彼の肌が触れる。空気が涼しいと感じるほど、マルティナの肌は火照っていた。そして同じくらい熱い彼の肌が、ゆっくりと重なってくる。


「ん、……んっ」

「痛い?」


気遣うようなまなざしに、マルティナは焦って縋り付く。


「やだ。お願い、やめないで、トマス」


気遣いも優しさも嬉しい。だけど、もうそれだけじゃ満たされない。
マルティナはトマスが欲しかった。名実ともに、彼のものになりたいのだ。


「……今日はやめろと言われても、やめれそうにないな」

「んっ」


唇をふさいだまま、彼の体が落ちてくる。


「……愛してる。マルティナ」


雨のように降り続ける愛の言葉に返事ができないほど、翻弄され、鳴かされる。痛みに身をよじりながらもマルティナは幸せな心地がした。

彼の余裕のなさが、逆にマルティナの不安を消してくれた。
ちゃんと求められてる、という安心感に、マルティナの瞳から涙がこぼれ出る。


「大丈夫? マルティナ」

「はい。……幸せです」

「俺も……」


何度も額にキスを落としながら、トマスは眠りに落ちていった。
先ほど馬車でもうとうとはしていたが、トマスの寝顔をしっかり見るのは初めてだと、マルティナはふと気が付いた。
まじまじと見つめると、力の抜けた彼の顔は、いつもよりあどけない。


「……トマス、寝顔かわいい」


十も年上の相手に初めて感じる気持ちに、マルティナは笑い出したくなりながら、彼の素肌に頬を寄せ、幸せな眠りについた。




【Fin.】
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