伯爵令妹の恋は憂鬱
「……容体は?」
「意識不明のようです。使いの者は医者が来るのと入れ違いで出てきたということで、詳細はわかりかねます」
「では俺も向かおう。着替える間に馬の準備をしておいてくれ」
「はっ」
アントンが下がったのを見て、フリードは息をついた。部屋に戻ると、再び眠ったものかと思った妻は、ベッドの上に半身を起こし、心配そうに彼を見ていた。
「フリード。大丈夫? リタ様に何があったの?」
現在、フリードの妻・エミーリアは妊娠九ヵ月だ。だいぶ膨らんだお腹を抱え、動きは今までになく緩慢になっている。
「聞こえてたのか。……お倒れになられたそうだ。悪いが今から北まで行ってくる」
「こんな夜中に? 真っ暗なのに大丈夫?」
「馬術に長けたやつを連れていくよ。こういう時にディルクがいないのは痛いが仕方ない。エミーリアは明日の朝になってから、ディルクにも伝令を出しておいてくれ。気がのらなければ無理しなくてもいいと添えてな」
リタはプライドが高く感情的で、フリードとも仲はあまりよくない。親友であり大切な相棒であるディルクが、昔、リタに罵倒されたことも内心ではまだ許していない。けれど、フリードにとっては数少ない血のつながった身内だ。複雑な心境ではあるが駆け付けないわけにはいかない。
「フリード。朝になったら私も行くわ」
エミーリアがフリードの着替えを手伝いながら気遣うように言う。フリードはふっと緊張がほどけるのを感じた。
身内には恵まれなかったが、代わりのように妻との関係は良好だ。愛し愛される喜びを、フリードはエミーリアと出会って初めて実感した。