伯爵令妹の恋は憂鬱


「気にしないって……なにをですか?」

「だからさ。君の出生について、本当のことを知りながらも気にしない貴族がいるとすれば僕だけだよってこと。実際会ってみたら、君はなかなかに僕好みだし。ね、君さえよければ、僕が君を嫁にもらってあげるよ。いい提案だと思わない? 僕が相手なら、クレムラート家は君の秘密に関してのリスクが無くなる。僕は秘密を了承して君を娶るわけだし、よそにばらす気もない。君の兄上も、君を厄介払いできるし、一石二鳥だろ?」


厄介ばらいという言葉がマルティナの胸に突き刺さる。
マルティナがひるんだのに気づいて、トマスが再び間に入った。


「ミフェル様、そういう提案を“脅し”と言うんですよ。マルティナ様の結婚はフリード様がお決めになることです。あなたは一体何が目的なんですか」


トマスの堅い声にも少しも応えない様子で、ミフェルは続ける。


「僕はリタ様の望みをかなえたいだけだよ。彼女はこの別荘を愛していた。ここを残したいって思っていたはずなんだ。でもフリード様は違うだろ。下手をすればこの別荘をつぶすかもしれない。……それで考えたんだよ。僕がここを受け継ぐことができれば、問題ないんじゃないかってね。ただそれには、多額の金銭を用意して買い取るか、クレムラート家の身内にならなきゃいけない。しがない子爵子息の僕にそんな大金は用意できない。つまり、ここを残すためには、君と結婚するのが一番の近道ってわけ」

「やっ」


おびえた様子のマルティナを見て、ミフェルはますます笑みを深くする。


「そんなにおびえないでよ。君は社交嫌いなんだろ? その点でも僕は気に入っている。僕とふたりでここで引きこもって暮らそうよ。君は君のしたいことをいていていいんだよ?」


どこまでもマイペースに話を進めるミフェルに恐怖心を感じて、マルティナはトマスにしがみついた。

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