伯爵令妹の恋は憂鬱
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結局、遺書探しは一時中断となり、マルティナたちは再びテラスのある広間に戻った。
突然の伯爵の登場に、一番驚きをあらわにしたのはディルクだ。
「なにか報告に不備でもありましたか? フリード様」
「いや……だがちょっと気になることが起きてな」
フリードはディルクにだけ小さく耳打ちする。
「遺書?」「ああ、でもお前の報告にはなかっただろう?」「いえ、それが……」とふたりは小声でひそひそと話し合っている。
ミフェルはアンネマリーに再びくどくどと怒られていて、とはいえほとんど話は聞いていないようで、面倒くさそうにそっぽを向いている。
その光景を、マルティナはまだトマスの背中に隠れるようにして眺めていた。
ふと、上からの視線に気づくと、トマスが口元に笑みを浮かべたままマルティナを見下ろしていた。
「フリード様が来てよかったですね」
「うん。ほっとした」
「……私はそろそろ仕事に戻りま……」
トマスがその場から離れようとしたので、マルティナは慌てて止める。
「ここにいて、トマス。私がいいというまで行かないで」
「……わかりました。ご命令の通りに」
フリードが来た以上、いつまでもトマスを拘束するのもおかしな話なのだが、マルティナはどうしてもトマスと離れたくなかった。ミフェルが怖いというのもあるけれど、トマスがいないと思考がまとまらないというのも理由の一つだ。