伯爵令妹の恋は憂鬱


 アンドロシュ子爵家の双子とリタが出会ったのは、今から三年前、双子が十六歳のときに、子爵領の街の中でだ。

子爵領はそれほど広くなく、高台にある子爵家から少しばかり降りたところにある街が賑わいのすべてだ。生鮮品の市場だけでなく、仕立て屋、染物屋、靴屋など多くの店が並ぶ。その中の雑貨屋で、リタはぬいぐるみをじっと眺めていた。


「あれ、あの方……」


アンネマリーが彼女に気づいて、ミフェルを小突く。


「伯爵家のリタ様だ。よくお母さまがお呼ばれしてるよね」


ふたりも母に連れられて、伯爵家の別荘を訪れたことがある。
その時は大人の会話が退屈で、二人で庭を探検したりしていた。だから、知っているとはいえ、気軽に話しかけに行くような間柄ではなかった。

大きなぬいぐるみを抱えては戻すリタが、ミフェルには滑稽に見えて思わず笑ってしまった。


「ばーさんがぬいぐるみとか笑えるね」

「こら、ミフェル。失礼なこと言わないの」

「ここで言ってたって聞こえないだろ」


だがリタはいつの間にか双子をじっと見ていた。老人は耳が遠いというし、聞こえているはずはない、と思ったミフェルは次の一言でそれが思い込みに過ぎないことを思い知らされる。


「おや、アンドロシュ子爵家の双子じゃないか。ごきげんよう。そっちの僕にプレゼントしようかね。ばあさんが持っているより似合うだろうよ」


アンネマリーはこの時も双子の弟の失礼を平身低頭で詫び、ミフェルは不貞腐れてそっぽを向いた。
それを見てリタはカラカラと笑ったものだ。

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