ワンダーランドと雪白姫(童話集)
トラッシー
【トラッシー】



 今日はお城で受賞式があるというのに、トラッシーは継母と義姉の言いつけで、我が家であるごみ屋敷の掃除をしていました。
 このごみの中からドレスを見つけたとしてももう間に合わないだろうと諦めていた、その時です。

 どこからともなく魔女が現れ、魔法のペンで魔法の紙に、ドレスや馬車の絵を描いたのです。
 すると驚くことに、紙の中から、インクのように真っ黒で光沢のある靴と、青毛の馬、そして漆黒のドレスが飛び出してきたではありませんか。

 トラッシーは喜びました。これで時間通りに受賞式に行くことができます。
 そんなトラッシーを見て魔女は微笑みましたが、こう忠告したのです。

「数十分もしてインクが乾くと魔法が解けてしまいますから、急いで帰ってくるのですよ」

「それなら走ってお城に向かい、急いで受賞のスピーチをして、また走って戻ってきます」

「ああ、それはいけません。走るとインクが早く乾いてしまいます。急いで、でも決して走らないように」

 なんということでしょう。これではせっかくの受賞式や王子様とのダンスを楽しむことができません。

 はらはらと涙を流すトラッシーを見て、魔女はとても心を痛め、こんな提案をしたのです。

「それでは灰かぶり姫御用達の魔女の元へ行き、魔法の本を借りてきますので、三時間ほど時間をくれませんか」

 良い考えではありましたが、それでは受賞式が終わってしまいます。トラッシーはますます大粒の涙を流しました。

 地面に落ちた大量の涙は、床に散らばるごみの間を抜け、ごみ屋敷の前の坂を下り、森を進み、お城に向かって流れて行きます。

「ご覧なさいトラッシー、あなたの涙はお城に到達しました。この涙の川の上を走って行けば、インクが乾く時間を遅らすことができます。お行きなさいトラッシー、この涙の川を辿って」

 こうしてトラッシーは漆黒のドレスと光沢のある黒い靴を身につけ、青毛の馬が引く馬車に乗り、お城へ行くことができたのです。





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