処方箋付きで一目惚れ
「さっきの奴の名前」
斉藤くんが真顔で言う。
「大学生で、タバコは吸わない。どうも、ここいらの出身じゃないみたい」
「...」
「喋ってること盗み聞きしたら、これくらいわかる。あんた、何か情報仕入れたか?」
あたしは頭を横に振る。
「バカ。二度と来なかったら、二度と会えないよ」
「...」
「あ、かっこよかったなあ。で終わりなんなら、何にも言わないけど」
そこまで考えてなかった。
「今、後悔してるだろう?」
考える。
そうだなあ。
今の記憶を再生する。
記憶に触ってみる。
これで終わりだって言い聞かせると、嘆く自分がいた。
後悔してる。
凄く、好みなヒトだった。
一目でそんな風に思えるヒトなんか、初めてだ。そして、二度と居ないかも知れない。
「そんなこと言って欲しくなかった。急に後悔が押し寄せちゃったじゃない。どうして、そんなこと聞いたんだよ」
「そんなの、君川さんに、オレのような思いをして欲しくないからじゃん」
あたしは黙って斉藤くんを見た。
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