その先へ
心傷
『落ち着いたら荷物は取りに来るから。それまでは、ごめんね、そのまま置かせてね』


そう言って、円香は出ていった。
涙を見せずに、笑顔のままで。



それからどれだけ経ったのか自分でもよくわからない。


朝起きて仕事にいき、遅い時間に帰宅して風呂入って寝る。


生きていくための当たり前のことをしているだけ。
ぽっかりと空いた穴を埋める術を考えることなんかしたくなくて、
いや、穴があいたことすら考えたくなくて、がむしゃらに仕事をした。
仕事が忙しくて良かったと、心底感謝した。


でも寝る前にはどうしても考えてしまう。
一人では広いベッドに、冷たいままの右側に、淋しさ、という簡単な言葉では表せない、そんな思いをかきけすように左を向き目を閉じていた。


どうしてこんなことになったのか。
どうして円香が隣にいないのか。


そんなことオレが悪いんだってことは十分にわかっている。
わかっているのに、どうしても『結婚』という二文字に拒否反応が出てしまうんだ。
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