極甘同居~クールな御曹司に独占されました~
これまでになく集中していたせいで、作業は驚くほど速く進んだ。
無心で文字を打ち続けていた私は、最後の行を打ち終えて保存すると、溜息をついて顔を上げた。


柱の掛け時計の長針は一周するにはまだ遠く、有香との待ち合わせの時間までしばらくある。
することがなくなった私は席を立ち、自動販売機で甘めのコーヒーを買った。


コーヒーの糖分が空っぽの胃袋に染みこんでいく。
観念して自分と向き合うと、この一時間、蓋をしていた胸の思いが解き放たれて溢れてきた。


今ならまだ間に合う。
日の浅い今ならこの恋心を消してしまえる。


自信のない消極的な私がそう主張する。


でも──。


胸元からは彼がくれた香水がふわりと漂ってくる。
それはほのかに甘いミドルノートに変化していた。

その甘さに背中を押されるように、恋心が現実に抵抗する。


叶わないなんて、どうして最初から決めてしまうの?
彼に相応しくないなんて理由をつけて、逃げてるだけじゃない。


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