はじまりと終わりをつなぐ週末
見上げると、二階には私の部屋の出窓が見える。一度軽く深呼吸をしてから短い階段を上がって鍵を開けた。

 真っ白だと思っていた壁の色が綺麗だと思えなくて、軽いと思っていたドアがとても重く感じる。


 お母さんは買い物に出ているのか、家の中には誰もいなかった。少しホッとする。

 玄関で濡れた靴下を脱ぎ、階段を上がって自分の部屋に荷物を置いた。昨日読んでいた漫画がベッドの下に転がっていて、机の上はノートや文房具が出しっぱなし、朝脱いだTシャツと短パンは丸めて椅子の上に置いてある。それらの物を特に片付けることもなく、部屋着に着替えてから洗面所へ向かった。


 お母さんは綺麗好きだから、洗面所はいつもピカピカで水垢なんて一つもない。洗面台の横にある棚にはタオルが種類別に分けて入れられていて、お母さんの化粧品関係はカゴにまとめて入れてある。

 大雑把な私とは大違いだ。全然似ていない。


 手洗いうがいを済ませた私はキッチンに行き、冷蔵庫から麦茶を取り出して自分のコップに注いだ。キッチンの前にはリビングがあって、その横には小さな和室がある。

 自分の部屋に持って行こうとしていたコップをキッチンのカウンターに置き、和室に向かった。

 和室には仏壇と箪笥が置いてある。この茶色い箪笥は私が物心ついた頃からずっとあって、引っ越す時も勿論持って行った。横長の引き出しが五段、その上に半分の長さの引き出しが二つ並んでいる。丁度私の顔の位置と同じくらいの高さだ。


 箪笥に近付き、一番上の段の右側の引き出しに向かって手を伸ばした。けれど引き出しには触れず、ギリギリのところで止めた。心拍が上がり、体がずっしりと重くなったような感覚に陥る。


 唇を強く結びながら閉まったままの引き出しを見つめた後、駆け足で自分の部屋へと戻った。


麦茶を入れたコップがキッチンに置きっぱなしだと気付いたけど、取りには行かずにそのままうつ伏せでベッドに倒れ込んだ。


 時間を戻せるなら、二週間前の私に言ってやりたい。


『この引き出しだけは、絶対に開けないで』


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