恋をしようよ
都内のシティホテルの一室、薄暗い部屋の中から東京湾が見える。
レインボーブリッジをぼんやり眺めながら、彼女を待っていた。

もうあいつとは長い付き合いだ、高校生の頃からだから。

ダブルの広いベットと、居心地のいいソファー、低めのテーブルには綺麗な花が飾ってある。
センスのいいスイートピーとガーベラの小さなそのアレンジメントは、これから俺たちがおこなう行為とはまったくの別のベクトルに向かっているように、可憐で可愛らしい。

一年前から禁煙を始めてから、タバコは吸っていない。
だから、こんなちょっとした間に何をしていいのかいまだに慣れない。

窓の外にきらめく明かりを一つ一つ数えながら、シャワーの水音だけがBGMだった。


「カズヤも入る?」

バスローブをまとった彼女が、バスルームから香りの良い湯気と共にこちらにやってきて、俺の隣に座った。

「いや、俺はいいや。」

なにか飲むかって聞くと、水でいいというので、冷蔵庫からミネラルウォーターを二本出して、無意識にキャップを緩めてやって渡してやる。

ソファーに座って一緒にそれを飲んだ。


「そういうとこ、相変わらずだよね。モテる男は、こういうこと普通にやるんだもん。」


メイクを落とした素肌の横顔を眺めて、彼女の頬に触れると、にっこりとこちらを向いて微笑み返してくれる。

俺はこいつのことも好きだ、ずっと昔から変らない。

「お前も変らないな、いやあの頃より綺麗になったかもな。」


俺たちが出会ったのは、高校一年の入学式。
同じクラスになって、たまたま隣の席になって、色々話しているうちに意気投合してマブダチになった。

こいつには当時彼氏が居て、そっち関係の相談にものってやっていたし、俺も適当に色々居たからしばらくはプラトニックな関係だった。

初めての時はどうだったんだっけ?

いつも忘れそうになるけれど・・・


「なんかもう腐れ縁だよね。あの時彼氏と別れて、カズヤが慰めてくれてさ・・・」

毎回会うたびに、反芻するかのように話してくれるから、何とか思い出している。


だけど俺たちはずっと、付き合ってるわけでもなくて、何も約束しているわけでもないんだ。

お互いに決まったパートナーが居る時はちょっと距離を置くし、フリーになると寂しくなってお互いどちらともなく食事に誘って・・・そういう間柄。
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