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あれだけ進んでほしかった時計の針は急に速度を増して、私だけが今もまだ進まない時計の針に悩まされていた。

何をするでもなく、出来るわけもでもなく、道は真っすぐしか用意されていなかった。

ブレない人間なんかじゃない。私はブレる事が出来ない人間だ。

「私、絶対産む」

今日、何度か聞いた言葉。それをポカポカの太陽の下で綾菜は繰り返す。

上着のいらない暖かな日。お弁当を食べて、心地よい眠りについてしまいそうな昼休み。

中庭に出て、干した布団の香りを思い出しながらする話じゃない。

朝、真っすぐ歩くよりも遅く着いた先に、当たり前のように綾菜はいた。

当たり前のように奈津美はいなかった。

昨日の電話の様子からして、綾菜は学校に来ないと思って、今日一日どう過ごすか。それだけを寝ずに考えていた私はどんなに薄情な奴なんだろう。

『産む』『産まない』の話を綾菜が『いる』『いない』の話にしているんだ。

奈津美のいない今、綾菜までいなくなったら私は誰と、お昼ご飯を食べて、誰とこうして太陽の下で話をするのだろう。

そんな不安ばかりが先をいく。
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