against
静かに目をとじるとジワジワと涙が滲むのがわかった。

キスをする前からずっと涙は溜まっていた。

戻れない君との関係を。

進んでしまった関係を。

優しい手が悲しくて。

温かい唇がただ、恐くて。



「わかんない、よ」

短く離れた震える唇で伝えると滲んでいた涙はボロボロと耳の方へ流れていた。

頭を支えられ全く力の入らない身体を起こされるとそのまま俊也の胸にもたれかかるように頭を埋める。

心臓の動きなのか、どちらの身体が震えているのかわからなかった。

求めていない未来だけがそこにあって。

震える身体をギュッと強く抱きしめられると、やっと息が吸えた。

「ごめん」

ここで好きだといいあえる関係ならば、こんな方法を選ばないよね、きっと。

この感情を素直に表現できたなら。

それでも進む道は変わらない。

答えはみつからない。



「ファーストキス」

「おまっ、バカじゃね」

俊也は腕の中にすっぽり納まる私をまた強く抱きしめる。

強く強く抱きしめられたって、痛いところがありすぎてわからなかったんだ。

バカだよね。




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