against
「いらっしゃいませ」という声と共に涼しい空気が全身を包み込んでホッとした。

バイト代が飲み物に消えていくかと思うと少し変な気分だったけれど店内をウロウロして涼んだのち、スポーツドリンクを手にしてレジへ向かう。

スポーツドリンクをカウンターに歩いてきた勢いのままゴトンと置くと、聞き覚えのある声が耳に届く。

「涼子?」

「え?」と顔をあげるとそこには奈津美の姿があった。

驚いて声も出なかった。こんな所で会うだなんて。

喋りたいことは沢山あるのに言葉が出ない。奈津美も同じ様子で手をとめてこちらをじっと見ていた。

けれど、すぐに私の後ろに次のお客さんが並んだから奈津美は慌ててスポーツドリンクを手にすると、ピッという音と一緒に「141円です」と言った。

動作が遅れた私がモタモタと財布から小銭を出していると「あと10分だから」とカウンターの奥の時計を指差し奈津美が言った。

ピッタリ141円トレイに乗せると「時間あったら待ってて」といつの間にか袋に入れられたスポーツドリンクと一緒に笑顔を差し出される。

手慣れた様子もそうだけど、何かドキドキしてうまく返事もできないまま、後ろのお客さんに押されるようにその場を後にした。









< 162 / 163 >

この作品をシェア

pagetop