against
5.流れ
やっぱり今日はいい天気。

朝からしっかり晴れた空は、幼稚園の遠足にはぴったりの明るさだった。

そんな空が私をよけい憂鬱にさせる。この長くて緩やかな学校への坂も。

「やっと終わるね〜中間」

学校に近づくにつれて、話題を昨日のテレビの話からテストの話に変えて、奈津美が言う。

わかってはいるけれど、その甘えるような柔らかい声が、右側から聞こえてくるだけで私の胸はどうにかなってしまうんではないかと思うほど、きつく絞められた。

昨日から奈津美の声は右側から聞こえるようになっていた。

一番遠くにあったはずの、綾菜の落ち着いた声はより近くに。聞こえる声の数は誰が見てもわかるほど減ってしまっていた。

昨日、奈津美が電車に乗ってくるまで、昨日は『いつもの今日』で、今日だって『いつもの今日』だったはず。

それでも昨日も今日も『いつもの今日』ではない。

奈津美は昨日から電車に乗ると、私の右側に座るようになった。

『いつもの今日』は奈津美が左側に座る事から始まる。

その奈津美の小さな行動は私に、きっと綾菜にも大きな変化だった。

いつでも、奈津美が真ん中で、右には私。左には綾菜がいて。

歩く時も、会話する時も、奈津美は私たちを引っ張る、リーダーのような位置にいた。
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