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8.曇りのあと
保健室のベットに横たわる、お人形のような綾菜を、愛おしい彼女を見るように眺める。

「ありがとね」

綾菜がそう言うので、別れを惜しむカップルのように保健室を後にした。

今日もお弁当に手を付けなかった綾菜。

先日からひいている風邪も治りきらないうちに今日の出来事。顔色が優れない綾菜を無理矢理、保健室に連れていき寝かせた。

すでに午後の授業は始まっていて、誰もいない廊下は静かに、私の足音だけを響かせている。

私は本気で心配していた。

でも、歩き出した方向は、教室へ上がる階段ではなく、この場所からの出口だった。

いつもこんなに静かな場所ならば、私は嫌いにならないだろう。

上履きをローファーに変えて、そこから一歩飛び出すと、真っ黒だったあの雲はどこかへ行ってしまっていた。

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