外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
奏介は静かにゆっくりと言い聞かせながら、私の横の髪に手を通し、さらりと梳いた。


「兄貴は教えるのが本業で慣れてるから、俺が教えるより七瀬の上達も早いだろう。君の望みを考えれば、恐らくそれが最良の手段だ。……だが、七瀬の『茶道』は、兄貴に染め上げられることになる。だから、大人げなく邪魔したくなった」

「奏介」

「まあ、廊下に漏れ聞こえてきた二人の会話が、思う以上に楽しそうだったから、踏み込めなかったという本音もある。……これは、男のつまらない嫉妬だ。聞かなかったことにしてくれ」


そう言ってきゅっと唇を結ぶ奏介を、上体を浮かせながら見つめて、私の胸はきゅうんと締めつけられた。
奏介の気持ちも測らず、藤悟さんから作法を教わることを、説き伏せてしまった。
『奏介のため』という言葉で、彼に反論する余地を与えずに。


「……ごめんなさい、奏介」


今さらだけど、彼に相談もせずに勝手に決めてしまったことを申し訳ないと思う。
藤悟さんはお義兄さんなのに、心配しすぎだ、と思ってしまったことも、お門違いで恥ずかしい。


「奏介の言う通り、藤悟さんに教わるって決めたのは私。……だから、ちゃんと最後まで、藤悟さんに教わるね。でも、忘れないで。私は奏介の妻だから、全部全部奏介に染まり切ってるんだからね」
< 114 / 226 >

この作品をシェア

pagetop