外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
彼の言葉だけ聞いていたら、拗ねているのかと思ってしまうところだった。
けれど、思考がそっちに傾かずにいられたのは、すぐに奏介が表情を険しくして、言葉を発してくれたからだ。


「初心者だからこそ、教える人間が複数にならない方がいい。同じ裏千家周防流の人間でも、師範一人一人で、教え方は違う。誰を師と仰ぐかで、弟子もまた育ち方が変わってくる。つまり、俺と兄貴、うちの両親……みんなそれぞれのやり方があるから、俺の出る幕じゃないと思い直したんだ」

「っ……」


奏介の説明は相変わらず理路整然としていて、私には口出しする隙もない。


「七瀬は兄貴を師に選んだ。それは、俺が教える時間を取れなかったせい。もちろん、そうわかっているから、兄貴に教わることも承諾した。……だが、そういうことだ」


自分で奏介に言わせておきながら、私は言葉に詰まってしまった。


藤悟さんに教わることを報告した時、奏介にかなり渋られたことを思い出す。
なつみに話した時、『気が気じゃないんじゃないの?』と冷やかされたことも、脳裏を過ぎった。
どう答えていいかわからずに口を噤む私に、奏介が「七瀬」と呼びかけ、私の方に身体を向けなおした。


「勘違いしないでほしい。ふて腐れてるわけじゃない。七瀬が真剣に周防の家業を考えて、努力したいと言ってくれた気持ちは嬉しい。君を妻にできてよかった。本当に、そう思っている」
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