外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
けれど、お互いのすべてを知り尽くしていたとは言えない。
私が奏介の実家の家業のことを知ったのは、両家顔合わせの段階まで進んでからだったのだから。
さすがにギョッとしたけど、奏介は次男だから、嫁の私に茶道の知識も腕前も求められることはなかった。


周防家のみんなはいい人で、私が茶道に縁もゆかりもない嫁でも、とても親切に仲良くしてくれる。
入籍・引っ越しまであっという間で、私もそこまで気が回らなかったけど……。
家業。嫁としての手伝い。
そういうのは断れるものじゃない。


「……奏介、疲れてるのに、ごめんね」


朝起きてから今まで、奏介はほとんど無言のままだ。
私は肩を縮めながら、まっすぐ前を見据える彼の横顔に謝った。


奏介は、チラリと私に横目を向ける。
前方の信号が赤に変わるのを見て静かにブレーキを踏み、車が完全に停止してから、ふうっと口をすぼめて息を吐いた。


「七瀬が悪いわけじゃない。俺の家のためを思ってくれてるって、ちゃんとわかってる」


まだ前を向いたままだけど、奏介がそう言ってくれたことにホッとした。
なのに彼は、「でも」と続ける。
それを耳にして、私はちょっと不安な気分で上目遣いに彼を見つめた。
奏介は私の視線を感じているのか、自分の顔を隠すように、ハンドルから離した片手の甲を当てる。


「早く兄貴にも結婚してもらわないと、困るな……」

「え?」
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