外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
「よかった、七瀬、無事か……!」


いったいどこから走ってきたのか、奏介は額に玉の汗を浮かべて息を弾ませていた。
いつもすっきりセットしている髪も乱れ、サラッと額にかかっている。
お客様に受付章を渡したままの格好で、一瞬固まってしまった私の目の前まで進んでくると、彼は長いテーブルの上に両手を突き、「はーっ」と深い息を吐いた。


「え、ちょっと。どうしたの?」


あまりにも不穏な奏介の様子に、辺りを囲んだ人たちがざわざわし始める。
私は慌てて彼の腕を引き、一緒に受付をしていたお弟子さんにその場をお任せして、テントから出た。


広い庭を見渡し、人目につかない場所を探す。
日本でも屈指の茶道お家元の大寄せ茶会とあって、あちこちでお客様が庭を散策している。


私は奏介の腕を掴み、まだ着慣れない着物にもたつきながら、庭の隅っこにある銀杏の木の下に辿り着いた。


「いったい、どうしたの?」


私まで少し呼吸を乱し、胸に手を当て、奏介を見上げる。
彼の額の汗を気にして、手に持っていた巾着からハンカチを取り出した。
私が額にハンカチを当てる間も、奏介は大きな手で口を覆い隠し、落ち着きなく辺りに視線を彷徨わせていた。
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