外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
それでも、なんとか顔に出さずにいられたようで、お義母さんは上品に口元を隠してふふっと笑った。


「じゃ、お弟子さんに着付けをお願いしてくるわね。こちらでちょっと待っていて」

「ありがとうございます」


綺麗に裾を押さえて立ち上がる所作に惚れ惚れしながら、私はお礼を繰り返した。
だけど、お義母さんが襖を閉めて出て行くと、なにかが肩にドッと降りてくる。
いけない、と思いながらも、正座を崩して格子に組まれた天井を仰いでしまう。


エリート弁護士というだけではない。
日本の伝統文化を守り、受け継いできた茶道家元・周防家の次男。
総領息子じゃないと言っても、奏介の妻の私がお作法すら知らないままではいけない。
絶対いけない……!
今は自分の名字でもある『周防』という姓が、私の肩にずっしりと重い。


「奏介の妻……愛してるけど、楽じゃない!」


思わずそんな泣き言を漏らした時、襖の向こうの廊下で忍び笑いが聞こえた。


「っ、だ、誰?」


弱音を吐いたつもりはなくても、聞かれたら結構恥ずかしい独り言だった。
私は瞬時に身構えて、襖の向こうに問いかける。
お義母さんがお弟子さんに頼んでくれると言ってはいたけど、まさかもう?と首を傾げた時、静かに襖が開いた。
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