外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
「おはよう、七瀬さん。新婚だっていうのに、休日の早朝からお呼び立てして申し訳ない」

「と、藤悟さん……!」


笑みを浮かべた口元を楚々と手で隠しながら室内に入ってきたのは、周防家の総領息子、私の義兄の藤悟さんだった。
お茶会で男性の正装だという袴姿。
日本庭園を背景に立つ藤悟さんを見ると、まるで古の世界からタイムスリップしてきた光源氏を見ているような気分になる。


一瞬夢と現の狭間に追いやられたような錯覚に陥り、ボーッと見上げてしまってから、私はハッと我に返った。
気を抜いて正座を崩していたことを思い出し、慌ててしっかりと座り直す。


「ああ、楽にしていいよ。まだ茶席が始まったわけでもない」

「す、すみません……」


正直言うと、和に関する習い事は書道すらしたことがない。
正座には慣れず、祖母の何回目かの法要の時でも、すぐ苦痛になってしまう私。
今はありがたく崩させてもらうことにした。


素直に楽な姿勢を取る私を見て、藤悟さんは奏介によく似た切れ長の目をすうっと細めた。
そんな目を向けられて、私はついドキッとしてしまう。


さっき、藤悟さんを見て『タイムスリップしてきた光源氏』なんて喩えをしたのは、奏介と血の繋がったお兄さんだけあり、彼もなかなかの美形だからだ。
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