外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
そのまま、お屋敷の広間に連れて行ってくれたのだけど、途中、お弟子さんやらお手伝いさんにも情けない姿を見られてしまい、振り返ってまで失笑されてしまう始末……。
もうどこかに消えてしまいたい気分だった。


そんな状態で広間に入り、お義父さんとお義母さん、藤悟さんに挨拶をする羽目になった。
三人共、やっぱり苦笑気味。
『お疲れ様』と言ってもらえたものの、恥ずかしさとあまりの居た堪れなさに、私はほとんど半泣きだった。


「別に、気にすることでもないだろう?」


実家で着替えを済ませた後、どっぷりと陽の暮れた都会の道を、マンションに向かって車を走らせながら、奏介は本当にさらりと言いのけた。


「特別興味を持たなければ、たいていの人間は触れることがない。一生素通りで済む伝統文化だ。日常生活で困ることはないんだし、なにも七瀬がそんなにめげることはない」


それでも私は助手席に縮込まり、ずーんと落ち込んでいた。
頭の中では、本日の数々の失態が走馬灯のように駆け巡っている。


そりゃあ、奏介の言う通り。
日本文化やお茶の作法など、知らなくても生きていける。
足を突っ込まずにいれば、正座が苦手でも許される。
でも、周防家の嫁としては完全失格だ。
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